親権と監護権
親権の意義
親権とは、子どもの財産についての権利義務と子どもの身上に関する権利義務の総称を意味します。具体的な内容は、個別の条文で説明されていますので、それをお読み頂くのがより直截的と思われますので、条文を掲げておきます。
①監護及び教育の権利義務(民法820条)
「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負
う」
②居所の指定(民法821条)
「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を求めなければならない」
③懲戒権(民法822条)
「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」
④職業の許可(民法823条)
「子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない」(2項は省略)
⑤財産の管理及び代表(民法824条)
「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。(以下、省略)」
⑥15歳未満の者を養子とする縁組(民法797条1項)
「養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。」
親権の行使
「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」(民法818条3項本文)。ですので、
結婚している間は、夫婦が共同で親権を行使することになります。しかし、離婚後は父母の一方のみが単独の親権者となります。したがって、離婚の際は、父か母のどちらかを親権者と定める必要があります。離婚後に親権者となった者は、上述したような子に関する重要な事柄を、単独で[元夫(あるいは元妻)と協議することなく]決定する権利を持ちます。親権を失った者は、子どもと一緒に住む権利、子どもを教育する権利、子どもの財産を管理する権利、子どもを代理する権利を失います。しかし、だからといって、子どもと全くの赤の他人となってしまう訳ではなく、法的な意味での親子関係は存続し続けることになります。端的に言えば、子どもにとって親であることは変わりありません。ですので、例えば、離婚後も、親権を失った親の財産を子どもは相続することになります。
親権の喪失
「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる」(民法834条)
親権の停止
「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる」(民法834条の2)
監護権
監護権とは、文字通り、子どもを「監」督・保「護」する「権」限を意味します(民法766条1項、771条)。子どもの身上に関する権利義務という点で、親権と重なり合う権限です。監護権を、わざわざ親権から切り出して議論する理由としては、①親権者がいかなる場合も常に監護の適任者であるとは限らないので、子に対する監護の実を挙げるために、親権者とは別に監護権者を定める必要がある場合があること、②離婚に際し、父母が親権を争った場合、父母のうち、一方を親権者とし、他方を監護権者として、親権と監護権を分属させた方がよい場合があること、③父母がいずれも子を監護することができないか、又は監護することが不適当な場合に、父母以外の第三者を監護権者と定めて子の監護を担当させる必要がある場合があること等が挙げられているようです[新版注釈民法(22)93~100頁、島津一郎=阿部徹編、有斐閣]
親権・監護権の決定基準
(1)親権者の指定の合意ができないときは、協議離婚できません。そこで、調停・審判・裁判を通じて親権者を定めた上で離婚することになります。親権者・監護権者の指定の決定基準は以下のとおりです。
(2)父母側の事情としては、①監護能力と意欲、②監護の実績、③子どもとの情緒的な結びつきの有無・程度、④心身の健康、⑤性格、⑥経済力、⑦生活態度、⑧暴力や虐待の存否、⑨居住条件、⑩居住環境、⑪保育あるいは教育環境、⑫子に対する愛情、⑬従来の監護状況、⑭親族等監護補助者による援助の有無、⑮監護補助者に任せきりにしていないか、⑯奪取の違法性、⑰面会交流の許容性などがあります。子どもの側の事情としては、①年齢、②性別、③心身の発育状況、④従来の養育環境への適応状況、⑤環境の変化への適応性、⑥子の意向、⑦父母及び親族との結びつきなどがあります[渉外離婚の実務187頁、榊原富士子・大谷美紀子・中村多美子著:日本加除出版]。
(3)このうち、監護の実績・継続性が優先的な基準とされています。換言すれば、子どもと愛着関係を形成して子の世話をしてきた「主たる監護者」による監護の継続性が重視されます。ただし、①子どもが一定の年齢以上に達していて(早熟の子であれば小学校高学年、遅くても中学生以上)子どもが自らの意思で主たる監護者でない者との生活を希望している場合、②主たる監護者が用意している監護環境が、およそ「子の福祉」に適さない場合、③主たる監護者による虐待がある等、監護能力に欠ける場合には、主たる監護者であっても親権が否定される場合があります。
(4)また、合理的理由なく面会交流を否定している場合は、一方の親子関係を断絶させようとしているとして、親権者・監護権者としてかなり大きな問題があるとして扱われます。