台湾の親族法について(その1)
- 台湾の親族法
はじめに
台湾の親族法につき、自分の備忘録としてまとめてみました。
参照・引用した文献は
①台湾法入門[蔡秀卿・王泰升編著:法律文化社]
②中華民国親族相続法[劉振榮、坂本廣身著:令文社]
③戴炎輝「中華民国婚姻法」宮崎孝治郎編『新比較婚姻法』115頁~(頸草書房)です。
③は、現時点からすると、古くなってしまった文献かもしれませんが、歴史的な沿革や背景が大変詳しく説明されており、個人的には、とても興味深く読めました。
第1 婚姻
1 形式的要件(2008年5月以降)
・書面の作成し、成年の証人2名以上が署名し、当事者双方が婚姻登録(創設的登録)を行う(982条)
・それ以前は「儀式婚主義」[=公開の儀式および2人以上の証人を成立要件とする]がとられていた(旧982条)。
2 実質的要件
(1)私益的要件
①結婚能力(=男女当事者が結婚の意義及び効力について理解しうる能力。通常は意思能力で足りる)のあること(条文なし)
②結婚意思の合致(=夫婦関係を成立させる合意)があること(条文なし)
③未成年者の婚姻については法定代理人の同意があること(981条)
④性的不能者でないこと(995条)
⑤無意識または精神錯乱中の結婚でないこと(996条)
⑥詐欺または脅迫による結婚でないこと(997条)
(2)公益的要件
①婚姻適齢に適していること(男性18歳、女性16歳以上):980条
:中国の国土の大半は北半球の温帯地方に属し、民族的には早婚の風習があったことと無関係ではないと指摘されることもある。
②一定の親族(近親)でないこと(983条)
:中国は礼教を重んじるので、倫理的観念に重きを置き、近親婚の制限範囲は
他国と比較しても広範の傾向があるとも指摘されている。
③後見・被後見の関係にないこと(984条)
④重婚でないこと(985条)
3 日本人と台湾の方との結婚
(1)日本で先に結婚する場合
①台湾の方がまず行うべきこと
・台湾の市役所で戸籍謄本を取得する(未婚事実の記載のあるもの)
・台北駐日経済文化代表処で婚姻要件具備証明書を取得する
[必要書類]
・台湾の戸籍謄本
・パスポート
・印鑑
・証明写真
②日本人と台湾の方が日本の市町村役場に婚姻届けを提出
必要書類
[日本人]
・戸籍謄本
・身分証明書
[台湾の方]
・結婚要件具備証明書
・台湾の戸籍謄本(未婚事実の記載)
・パスポート
③台北駐日経済文化代表処に対して婚姻届を提出
必要書類
・日本人の戸籍謄本(既婚事実が記載)
・台湾の方の戸籍謄本(未婚事実の記載)
・パスポート
・印鑑
④台北駐日経済文化代表処から証明書を受け取る
(2)台湾で先に結婚手続きをする場合
①日本人がまずすべきこと
・日本の市町村役場で戸籍謄本(未婚事実の記載)を取得
・台北駐日経済文化代表処にて、戸籍の認証を受ける(日本の外務省の認証は不要)
②日本人と台湾の方が台湾に行く
③日本人は、台北市または高雄市にある財団法人交流協会在台事務所(日本大使館に相当)に
上記①の「認証のある戸籍謄本」を提出して、婚姻要件具備証明書の発行を受ける
④台湾の市町村役場に婚姻届けを提出する
[台湾の方]
・身分証明書
・印鑑
[日本人]
・婚姻要件具備証明書
・パスポート
・印鑑
⑤台湾の市町村役場から、結婚証と台湾の方の戸籍(既婚事実の記載)を受け取る。
⑥日本の市役所に婚姻届けを提出する
[日本人]
・戸籍謄本
・身分証明書
・印鑑
[台湾の方]
・台湾の戸籍謄本(既婚事実の記載)
・結婚証
・パスポート
4婚姻の効力
(1)身分上の効力
①冠性
1998年改正までは、妻の姓に夫の姓を冠することが原則とされていた。
これは同姓婚の禁忌を冒していないことを表示することから生じた習慣に基づくものと思われる。
しかし、1998年改正により、婚姻後も夫婦はそれぞれの姓を使用することが原則とされた(1000条)。
②同居の義務および夫婦の住所(1001条)
③貞操義務(明文なし)
(2)財産上の効力
④日常家事債務についての代理権
夫婦は日常の家事について互いに代理人になる。
⑤家庭生活費用の分担義務(1003条の1)
夫婦は家庭生活を維持するために必要な費用については分担し、家庭生活費用から生じた債務については、
夫婦は連帯して責任を負うものとされる。
⑥自由処分金(1018条の1)
夫婦は、家庭生活費用の他に、協議により一定額を自由処分金として、夫または妻に供することができる。
⑦扶養義務(1116条の1)
夫婦は互いに扶養の義務を負う。
第2 離婚
1 旧律令の下での離婚
①棄妻
・夫に離妻権が認められていた(妻には離夫権はなかった)
・夫の棄妻権に対する礼教(大戴礼・孔子家語・穀梁伝等)による制限(「七出・三不去令」)。
唐律に規定されてから清律に至るまで踏襲された。すなわち、妻に「七出」(無子、の事由があるときに限って夫は棄妻することができる。
また、「七出」(無子・淫佚・不事舅姑・口舌・盗窃・妬忌・悪疾)の原因があっても、
「三不去」(与更三年喪、前貧後富貴、有所取無所帰)の事由がある場合は、棄妻を認めない。
・しかし、夫は往々にして七出に籍口して妻を追い出し、妻は殆ど官に訴えることがなかった(事実上の無因離婚)。
・もっとも、旧時の婚姻はかなり売買婚的色彩を帯びており、結婚に要する費用は相当かかるので、
実際においては、資産ある者ならともかく、然らざる者は容易に妻を離婚しなかった。
また、妻の実家の冠省や世論の制裁が夫の専断離妻を抑えてきた
②義絶
・「夫婦の情分が乖離し、其の義、既に絶えた」の意味
・義絶(夫、又は妻の一定の悪行)の事由がある場合には官から強制的に離婚され、離婚しない者は徒刑(懲役刑)に処せられた。
③両願婚
現行法でいえば協議離婚に相当する。実際には協議離婚に名を借りた夫の棄妻権の行使と言われていた。
2 現行法
①協議離婚
・夫婦の双方が離婚に合意するときは離婚することができる(1049条)。
(協議離婚を認めた理由)
・夫婦は親子の如き「天合」のものではなくて「人合」のものであるから「去就」を定めることができる
(契約で結んだものは、これを解消することができる)。
・婚姻を継続しがたい原因は複雑かつ多様である。中には公表を憚るものもある。
もし、離婚する為には、一々、訴訟により法定の離婚原因に基づいて判決を受けなければならないとしたら、
相手方の名誉や自己の名誉を傷つけることになりかねない。
法廷でお互いにプライベートな事柄を暴露し合い、「家醜を外傷する」ことは避けなければならない。
・法定の離婚原因には該当しないが性格上どうしても折り合わない場合もある。
その場合にも離婚を認めるべき。
・訴訟になると手続きが煩わしい
・平和裡に妥協の上、協議離婚できればそれに越したことはない。
・協議離婚は、書面によって行い、かつ、2名以上の証人の署名が必要である
(理由)当事者に真意のあることを確かめ、慎重を期し、強迫を防ぐため
・戸籍機関に離婚の登記を行う必要がある(1050条)
・登記を経ない協議離婚は、第三者に対する関係では離婚と同様の効果は生じない。
②調停離婚
離婚の訴えは、提訴前、法院の調停を経なければならない(提訴前の和解)
③和解離婚
離婚訴訟の係属中に、当事者間で合意が成立し、和解調書に記載された場合に成立する(1052条の1)
④判決離婚
・夫婦の一方が一定の原因に基づいて離婚を要求するにもかかわらず、他方がこれを承諾しない場合に、訴えの方法で離婚の目的を達する制度である。
・裁判離婚には一定の原因が必要である。
・訴えの方法で行わなければならない。
(裁判離婚を認めた理由)
・協議離婚が認められてはいるが、もし一方が離婚を欲しても、他方がこれに
同意しない場合は、これによって婚姻関係を解消することはできない。
・旧律令時代のように、妻に離夫権がなく、夫に婚姻破綻原因があるのに妻が離婚できないというのは人道にもとる。
・夫婦生活に裂痕が生じて、到底、共同生活を継続することが困難となり、事実上既に別居しているのにもかかわらず、
一方の不承諾のために離婚することができない(=裁判離婚を許さない)とすれば、終生忍苦しなければならない。
・一度誤った結婚をすれば再び幸福な結婚をする機会を失うことは堪え難い。