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コラム

親権をとりたい

1 よくある質問

「夫とは離婚することでは合意していますが、私も夫も子供の親権を希望しています。夫は正社員の会社員で、実家も裕福です。私はパートで働いています。夫は、『お前の稼ぎでは子供を育てることなんてできっこないだろうから、自分が子供を引き取る』と言っています。収入の少ない私は、親権をあきらめないといけないのでしょうか。」このようなご相談を受けることもよくあります。結論から言えば、収入が低いというだけ理由で親権をとれないことにはなりません。言い換えれば、収入の多い少ないは、親権者を決める際に考慮される要素の一つとなりますが、あまり重視されず、他の要素の方が優先されると言われています。妻の資力が不十分な面は、夫からの養育費の支払いや、国や地方自体からの公的給付により克服が可能であると考えられています。少し立ち入って検討してみましょう(以下の記載につき「渉外離婚の実務」日本加除出版・大谷美紀子、榊原冨士子、中村多美子著、173頁以下)。

2 親権とは何か

(1)「親権」の意味

まず、「親権」の内容について確認しておきます。「親権」とは「未成年子を自立した成人となるように養育監護する職分であり、子の福祉、子の利益を守るために親に認められた特殊な法的地位」と言われています。「親権」の内容としては、「子とともに住む権利を含む身上監護権、子の居所指定権、子の財産の管理権、子の財産上の法律行為についての代理権、一定の子の身分に関する行為の代理権」を含むと説明されます。法律的には難しい言葉で説明されますが、概ねの理解としては、「子供と一緒に住む権利・子の居所や子供の医療等の子供に関する重要な事項を決定する権利である」と把握しておけばよいかと思われます。

(2)「親権」の構造

「親権」は、婚姻中は夫婦の共同親権(共同して親権を行う)とされていますが、離婚後は、夫婦のどちらか一方のみが親権を有する「単独親権」(単独で親権を行使する)となります。離婚に際しては、親権者を定める必要があります(でないと離婚届が受理されません)。なので、離婚に際しては、夫婦のいずれが単独親権者となるのか、という「親権」の争いが生じます。

3 親権者の決定

(1)決定手続

離婚協議における当事者間の話し合いや、調停でも決着しない場合は、家庭裁判所による審判や判決によって決定されることになります。

(2)親権者の決定に際し考慮される事情

以下のような事情を考慮すると言われています。

ア 父母側の事情

①監護能力と意欲
②監護の実績・継続性
優先的に考慮される基準とされています。これまで、愛着関係を形成して子供を世話してきた者が、今後も、子供の監護を継続する必要があると判断されます。細やかな愛情を持って、例えば、風呂・食事・寝かしつけ等子供に寄り添ってきめ細かく世話をしてきたか(あるいは、今後も世話できるか)といったことがチェックされます。これまで細やかな愛情を持って愛着関係を形成した側が親権者として認められます。この点に関し、従前は、母親優先の原則と言われたこともありましたが、母親であることから直ちに親権者と認められる訳ではなく、その内実として、現実に子供の面倒を一生懸命みている必要があります。離婚前の別居状態では、現在、手許で子供の面倒を看ている側が圧倒的に有利と言われています。
③子との情緒的結びつき
④心身の健康
⑤性格
⑥経済力
⑦生活態度
⑧直接子に対してなされた否かを問わず暴力や虐待の存否
言うまでもなく、親権者としてふさわしくないと評価されます。夫から妻への暴行であっても、それを目撃した子供の脳の大脳後方の「視角野」を萎縮させてしまい、その結果、子供は他人の表情を読めなくなり、将来的に、うまく対人関係を構築することができなくなってしまうとの指摘もなされています。これに対し、不貞行為(不倫)があったとの事情は、それ自体のみで、直ちに、親権者となれなくなってしまう訳ではありません。
⑨居住条件
⑩居住環境
⑪保育あるいは教育環境
⑫子に対する愛情
⑬従来の監護状況
⑭親族等監護補助者による援助の有無
⑮監護補助者に任せきりにしていないか
⑯奪取の違法性
別居して離婚で争っている時に、母親の下で生活している子供を父親が母親に無断で連れ去ったような場合は、たとえ、その後に父親の元で安定した生活が送れるようになったとしても、父親は親権者として認められない傾向にあります(のみならず、上記の例では、場合によっては父親に誘拐罪が成立する可能性すら議論されることになります。)。なお、このような場合は、間髪を入れずに、子供の引き渡しを求める手続きを執る必要があります。また、上述したように、監護の継続性の観点から、離婚前の別居状態では、現在、手許で子供の面倒を看ている側が圧倒的に有利と言われていることから、別居に際しては、相手に無断で、子を連れ出すことが行われています。このような「別居に際しての子の連れ出し」行為については、これまでの子の監護状況、その監護につき特段の問題がなかったか、今後の監護についても当面の見通しがあるか、子供との親和性というような事情を考慮して、その違法性の有無が判断されます。
⑰面会交流の許容性

イ 子供の側の事情

①年齢
②性別
③心身の発育状況
④従来の養育環境への適応状況
⑤環境の変化への適応性
⑥子の意向
就学前の子については、子が、別居している親に対して強い拒絶反応を示しても、優先基準とはされないのが一般です。同居親が否定的なことを子供に刷り込んだりすることによる影響を受けている可能性があるからです。また、同居親に対して子供なりに気を遣うといった事情により、言葉と真意が一致しないことも多いからです。
⑦父母および親族との結びつき
⑧兄弟姉妹の関係

4 余談

多くの場合は、ご夫婦のいずれもが親権を希望することによって紛争となります。しかし、中には、ご夫婦のいずれもが親権を希望せず、子供をお互いに押しつけ合うような紛争もあります。ご夫婦ともに様々なご事情がおありなのかもしれませんが、お子様の気持ちを思うと、正直、いたたまれない気持ちになってしまうことも否定できません。

監修

河合・藤井法律事務所

代表弁護士河合基裕

法律事務所に相談に来られる方は、思わぬトラブルに巻き込まれ、不安を抱えておられることと思います。当事務所では、ご相談者さまとの信頼関係を大切にし、ともによりよい解決を目指して参ります。 お力となれるよう精一杯、務めて参りますので、よろしくお願い申し上げます。

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